「好き」を​専門職に​変える​行動指針 ── アクセシビリティスペシャリストの​実践

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エンジニアがこの先生きのこるためのカンファレンス2026での登壇内容の共有です。久しぶりの登壇ってこともあって緊張しましたけど、なんとかうまくいった気がします。

本当はスライドなしで面白く話せるようになりたいなって思いつつ、いやスライド自体も視覚優位な人への配慮だよな、みたいに思ったり、やっぱりまだ自信がなかったりして作りました。


「好き」を専門職に変える行動指針 - アクセシビリティスペシャリストの実践

表紙スライド
  • エンジニアがこの先生きのこるためのカンファレンス2026
  • @masuP9

桝田 草一 / @masuP9

UI開発者 / アクセシビリティスペシャリスト / 41歳

自己紹介スライド
職歴
構造計画研究所 〜 29
Digiper 〜 32
CyberAgent 〜 36
SmartHR 〜 40
フリーランス 〜

Gaji-Labo, LegalOn Technologies, PLAID

キャリアの最初は、B2Bの営業マンをやってました。全然、ウェブ業界とかではなくて、製造業のお客さん相手にCADとかCAD上で動くシミュレータを売ってました。

ずっと趣味でウェブサイト作ってたんですが、30歳になる前にデジパという制作会社に転職します。その後、ABEMAとかアメーバブログとかやってるサイバーエージェントに転職し、その後、SmartHRに。SmartHRではUIデザイナー、その後、アクセシビリティの組織を立ち上げて、アクセシビリティと多言語化のチームをマネジメントしていました。色々ありまして、昨年退職し、現在はフリーランスで活動しています。

生存戦略🤔

人の戦略の話なんて聞いたってどうしようもない?

スライド2枚目

今日は、この先生きのこるためにはってことなんですが、生存戦略。うん、でも人のキャリアの話なんて聞いたってどうしようもなくないですか?

まだまだキャリアに再現性のある業界じゃないし、特にその中でも専門職のキャリアなんて全然再現性がない。お前だからできたんだろ?って話ばっかりじゃないですか?

そもそもアクセシビリティスペシャリストなんてマニアックなやつの話聞いてもしょうがないって所あると思うんですよね。求人なんて1,2件しか出てないし、そもそも非機能要件であることがほとんど。

何歳で何を学んでとか、どこどこに転職してって事実は何の参考にもならんのですよね。でも?スタンス(行動指針)の話は、参考にできることもあると思う...ので、今日はそういう話をしようと思います。

まずは一人前になる

何を言ったかよりも誰が言ったか

スライド3枚目、背景にThe Preaching of St. John the Baptistの絵
The Preaching of St. John the Baptist - Rembrandt van Rijn(c. 1634–1635), File:Rembrandt - The preaching of Saint John - Gemäldegalerie Berlin 2.jpg - Wikimedia Commons

いきなり、何を言ったかよりも誰が言ったかって、何を言ってるんだって話なんですけど。逆はよく聞くと思うんですよね。バイアスにとらわれず、事実で判断しようっていう。それは否定しないし、誰が言ったかを気にしてくれって話じゃなくて、自分はそう見られてるって話です。

私、30歳未経験でこの業界に入ったんですけど、そんなひよっこの私が、HTMLをきちんと書きましょう、アクセシビリティに配慮しましょうなんて言っても誰も聞いてくれない(幸い自分は聞いてくれる職場ではありました)。まずは一人前にならないと聞いてくれないし、まず業務がこなせるようになれって話なんですよね。

一人前になっても業務で精一杯だとアクセシビリティやってる余裕なんてないから、一人前の業務を8割でこなせる実力がないといけない。

私がウェブサイト中心の制作会社からサービスを提供してる事業会社に転職したのも、まずアプリケーション開発ができるアクセシビリティの人間がいなかったし、ウェブアプリのアクセシビリティが悪いやら、アプリ開発の人間はアクセシビリティやってくれねぇ、って言うんじゃなくて、自分がその世界に飛び込んで、仲間になる必要があると思ったんですよね。

だから自分自身がアプリケーション開発ができるようになって、アクセシブルなアプリケーションを作って、界隈で発言力を持つしかねぇって思ってました。逆に言うとそれができる人がいなかったから、それができれば重宝されるだろうって打算もありました。

まず目指したのは一人前のアプリケーションが開発できるフロントエンドエンジニアになる、その上で自分の出すアウトプットはアクセシブルであること。これができるようになって初めて他人のコードもレビューできるし、他職種も巻き込んだ動きができるようになりました。

旗を掲げろ

旗のもとに、仲間も仕事も集まってくる

スライド4枚目、背景にLa Liberté guidant le peupleの絵
La Liberté guidant le peuple - Eugène Delacroix(1830), File:La Liberté guidant le peuple - Eugène Delacroix - Musée du Louvre Peintures RF 129 - après restauration 2024.jpg - Wikimedia Commons

好きなこと、得意なことがあって、それを仕事にしたいとしても、自分ができるよ、ってことが知られてなければ何も得られないです。機会を手に入れるには、仕事を得るには、人を集めるには、事を起こすには、旗を立てる必要がある。

〇〇といえば、「あなた」だよね、って言われるようにならないといけない。それがまずはチーム内でもいい、次は会社内で、業界で言えば、日本、世界に...って。

旗を立てるには、まずは名乗りをあげること。「私は〇〇ができます、得意です、任せてください」って。まずはチーム内で良い。広がるにつれて、いろいろな機会があなたに飛び込んでくるし、その機会があなたを成長させてくれる。同じ志を持つ仲間も、知見も集まってくる。

旗の立て方はどんなものでもいい。ブログを書く、登壇する、有名なOSSを作る、イベントを主催する。一番簡単なのは自分でスペシャリストやエキスパートと名乗ることなんですよ。名乗るにはまだ早いとか、例えばフロントエンドエンジニアとして一人前であるがゆえに、それを手放してしまうんじゃないか、それしかできないと思われるんじゃないか、とか葛藤もあると思います。でも専門性は行き来できるし、なんなら掛け算で効くこともあるんで、名乗ってしまえばいいんです。

旗を立ててもしばらくは、何も起こらないかもしれない。でも続ける。そこに行けば、ずっとあるってことが大事です。

私はサイバーエージェントに転職したとき、全社に配布される自己紹介で「この会社のアクセシビリティおじさんになります」って宣言しました。そのおかげで配属前から、アクセシビリティに興味や関心があるエンジニアには認識されていたし、入社直後にも社内イベントで登壇することができた。

社内でイベントをやっても、社外でイベントをやっても誰も来なかったこともありました。会議室で一人でランチしたし、フードコートで一人でずっと人を待ってたこともある。でも続けた。集まらなくたって、そこに旗が立ってるってことが認識されることが大事だから。

SmartHRでは、アクセシビリティスペシャリストっていう職種を作りました。職種ができれば名乗りやすくなるかなって思って。

大事対決をしない

遠くを見れば向いてる方向は一緒

スライド5枚目、背景にLes Sabinesの絵
La danse (I) - Henri Matisse(1909), File:Henri Matisse, 1909, La danse (I), Museum of Modern Art.jpg - Wikimedia Commons

自分の大事に思っていることが認知されるようになっても、単に自分のエゴだけで動いていれば、それでは専門家としての成果は出ないなって思っていて。

自分が何かを大事と思っているのと同様に、他のメンバーにも、チームにも、プロダクト、組織にも大事にしていることがあり、それを蔑ろにしていては自分の大事、も蔑ろにされてしまう。お互いの大事をリスペクトして、同じ方向を向いて、協力しあえるような関係を作りましょう。セキュリティもデザインシステムもパフォーマンスもUXも敵じゃなくて仲間なんだ。

一見、トレードオフに見えるようなことでも、想いの源泉を聞けば共感できるだろうし、遠くの真に達成したいことを考えれば協力できることもあるはず。それは組織のミッション、ビジョンかもしれない。

最初のチームでは、バックエンドの人たちが大事にしていた「可用性」と、アプリケーションエンジニアがKPIにしていたクラッシュ率、これらはアクセシビリティと近しい関係にあるって思って、1つにまとめて俺たちのサービスはユーザーが使えなくなるような低い品質を認めない、っていう運動にして、品質目標をまとめた宣言を出しました。

これは反省でもありますが、他にもデザイナーとバチバチやりあうことも。コントラスト比の話を中々聞いてくれないデザイナーが居たんですが、よくよく聞いてみるとその方のパートナーが高コントラスト比がしんどい特性があって、高コントラスト比 = 見えるってのに疑念があったんです。そうなると自分はコントラスト比を高くしたいわけじゃない、見えやすい人を増やしたいんだ、低いと見にくい人もいるからちょうどいいところを目指そう、って同じ方向を見ることができました。

正義と政治

政治をしない正義はただの独りよがり、正義のない政治はただの八方美人

スライド6枚目、背景にLes Sabinesの絵
Les Sabines - Jacques-Louis David(1799), File:F0440 Louvre JL David Sabines INV3691 rwk.jpg - Wikimedia Commons

政治ってね、なんか避けられがちですよね。でも必要だと思うんです。同じ志を持った人間で集まって、徒党を組んで、意見を強くしていく。これも政治です。

動きを統率したり、トップダウンで進めたり、ボトムアップを応援したり、他の政党?グループとの折衝や協力も政治には必要なことです。自分たちの価値を最大化するためにビジョンとミッションを持ったうえで政治をしましょう。

全開発チームが遵守するアクセシビリティの品質基準を策定したとき、開発チーム全体に適用するには、デザイングループだけじゃなくて、エンジニア、プロダクトマネージャーなど他職種との調整が必要でした。事前に意図や狙い、想定されるリスク(開発スピードの低減、過剰品質)などを説明し、協力体制を作れるように調整したうえで全社に適用できるものになりました。

その後もほとばしる情熱を持って過剰品質を作ってしまった場合、情熱はとってもありがたいことですが、開発スピードに影響が出れば、開発チームがやらなくていいことをまとめ、専門組織で巻取り、情熱を発揮できるサイドプロジェクトを組成する、などハレーションを起こさずにみんなが情熱を傾けられる施策をやってきました。

価値が出しやすい環境に身を置く

生まれた国や、住んでる街や、コネが勝敗を分けることは何度もあるだろう 孤憤 by THA BLUE HERB

スライド7枚目、背景に神奈川沖浪裏の絵
神奈川沖浪裏 - Katsushika Hokusai(1829–1832), File:The Great Wave off Kanagawa.jpg - Wikimedia Commons

冒頭は好きな曲からの引用です。これまで話したように、一人前になり、旗を立て、政治もやり...ってやってもですね。価値が出ないことなんてざらにあるんです。そういうときはですね、シュッと転職するんです。

アクセシビリティが価値になりやすいビジネスや開発現場は限られてるし、できる人も限られている。だからマイノリティであり、でもだから専門職たり得るって側面もあると思うし。

例えば特定の人しか使わないアプリケーションよりもより多様な人が使うアプリケーションのほうが、ビジネス上のアクセシビリティの価値が高まる可能性が高い。B2CよりもB2Bの方が良いかもしれない、むしろ特定の人が使うからこそ大事なこともあるかも?自分の好きなものを誰が必要としているか、誰がなぜお金を使ってくれるのかを考えて、それに応えていくことが大事です。

冷笑するよりものっかっていけ

セルアウト上等

スライド8枚目、背景にRain, Steam and Speed – The Great Western Railwayの絵
Rain, Steam and Speed – The Great Western Railway - Joseph Mallord William Turner(1844), File:Turner - Rain, Steam and Speed - National Gallery file.jpg - Wikimedia Commons

Reactが流行ったら、Reactで使えるアクセシビリティが高いコンポーネント集を作る。AIが流行れば、AIを使った効率化を考える。

AIにはできないことを探すよりも、AIをぶん回してプロダクトをアクセシブルにする方法を考えよう。例えば組織でAIを使ってるなら、すべてのひとの出力に、システムプロンプトを通じて介入できる可能性もあるって思ってて、専門職にとってはもしかしたら自分の専門性をスケールするチャンスかも知れない。自分の専門性をデリバリーするチャンスを逃さないようにしよう。

まとめ

スライド9枚目
  • まずは一人前になる
  • 旗を立てる
  • 大事対決をしない
  • 正義と政治
  • 価値が出しやすい環境に身を置く
  • 冷笑するよりものっかっていけ

今日話した、私のスタンスはこんな感じでした。一つでも心に残るものがあれば嬉しいです。

迷ったら面白い方へ

スライド10枚目、背景にWhere Do We Come From? What Are We? Where Are We Going?の絵
Where Do We Come From? What Are We? Where Are We Going? - Paul Gauguin(1897–1898), File:Gauguin - Where Do We Come From? What Are We? Where Are We Going? (1897-98).jpg - Wikimedia Commons

最後に。これは仕事だけじゃなくて、私の人生の行動指針ですけど「迷ったら面白い方へ」。これからもやっていきましょう。


スピーカーノートの内容をもとに、実際に話したことや話さなかったことも含めていい感じになるように調整しました。

またどこかで、同じ内容でも良いからやりたいなって思ってますので、話してくれーってイベントがあったらお声がけくださいまし。