車の​免許を​持ってない

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車の免許を持ってない。もう今の時代には珍しい事でもない、と思っているのだけど、実はそうでもないらしい。なんやかんや周りの大人たちは、ペーパーだよ〜、とかゴールドだよ、とか言いながら車の運転ができるのだ。まるで僕だけが大人になってないような気がしてくる。

公共交通機関が便利な街で生まれ育った。それでいて両親とも免許を取ってなくて、もちろん車も持ってない。停める場所もない。免許の必要性を感じることもなかった。乗る車と言えば、バスか旅行先でたまに乗るタクシーぐらいだった。

しかし、どこかで大人はみんな車の免許を持っていて、免許持ってないのって変なのかもって思うようになった。大学に入りアルバイトをする歳になると、周りでは免許を取っている人間もわりといたし、アルバイトの求人にも応募条件に要普通免許と書いてあったりしたし。就職活動では履歴書の資格欄に英検3級しか書くことがなくて、やっぱり自分はちょっと普通じゃないのかもって思い始めていた。

大学卒業間際になり、社会に出たら免許取る時間なんてないよ、なんて言って免許を取りに行く奴も増え、いよいよマイノリティになりそうだった私は、じゃあ俺も免許を取る!と、親に金を借りた。

短期間で免許を取るには合宿だろ、ってことで合宿免許のチラシを集め、当時住んでいた京都からだと鳥取が安くていいらしいよ、とか、合宿に来てる女の子と仲良くなるためにはどうしたらいいんだろ、なんて邪なことを考えていたら、いつの間にか借りた20万円が半分に減っていた。

もはや何に使ったのかも記憶にない。けど、酒を飲んでた記憶しかないので、きっと木屋町通りの安い酒に消えていったんだと思う。そんなこんなで免許を持っていない40歳ができあがった。ちなみに残りの10万円は東京への引越代に消え、借りた金は返したと思う。


あまりにも車に乗らないまま大人になった私は、まだまだ人の車に乗ることが苦手だ。ようやく窓の上げ下げはできるようになったけど、走ってる途中に操作すると、なんかドアが開きそうな気がしてちょっと不安になる。いまだに座席の倒し方もわからない。

若い頃はもっと酷かった。社会人2,3年目だったかゴルフに行くことになり、車を持っていた先輩にゴルフ場まで乗せてもらえることになった。早朝、迎えに来てくれた先輩の車にゴルフバッグを積み込むと、私は悠々と後部座席に乗り込んだ。じゃあよろしくお願いします、とまでは言わなかったけど、先輩からの「タクシーか!」というツッコミが何一つ理解できなくて呆れられた。その後、途中のサービスエリアか何かで車から降りる時、ドアを開けてください、って言ったら、また呆れられた。


あの頃に比べれば、人の車に乗ることにも慣れたし、身分証だってマイナンバーカードという便利なものができた(それまではパスポートを用意していた)。田舎に移住なんて考えたこともない。だから免許を取ろうなんてもう思わないんだけど、でも、まだ車を運転している人を見ると「大人だなぁ」なんて思ってしまう。